漫画ギーク記

漫画を中心にしたおすすめの面白い本について書いています

カルト教団を扱う、重厚な小説。『教団X』【小説感想】

 

 芥川賞の受賞作家でもある中村文則による、カルト教団やその暴走、はたまたテロリズム、男女の関係、神までもをテーマにした純文学の作品である。テレビ朝日系列の「アメトーーク」で、同じく芥川賞受賞作家の又吉さんやオードリーの若林さんがおすすめしたことで話題になった。純文学の作品であるので、過激な性描写や重いテーマも含まれている。読者を選ぶとは思うが、いろいろと考えさせられる重厚な小説になっている。

 謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。

 

リアリティあふれるカルト教団の教え

 「教団X」は一人の男が、行方不明となった女性を探しに、カルト教団へと潜入する場面から始まる。

 カルト教団の中が作品の舞台となっているが、作者は実際に所属していた過去でもあるのではないか、と疑いたくなるようなリアリティあふれる描写となっている。特に、カルト教団の教祖の一人語りは圧巻である。物理や量子力学を駆使し、その場で自分が実際に聞いているのうにも思える、話に引き込まれる内容となっている。こんなことを永遠と聞かされていたら思わず信者になってしまいそうだ。

 また、作者もあとがきがつぎのように言っている。

 こういう小説を書くことが、ずっと目標の一つだった。これは現時点での、僕の全てです。

 (出典:『教団X』)

 あとがきからも小説の中身からも作者のしっかりとした取材と魂を感じる作品となっている。テレビ局に潜入した、信者がコメンテーターを論破するシーンもいい。

 

終わりに

 この小説は、純文学の作品であることは考慮をしてから読むかを決めたほうがいい。過激な性描写、宗教、政治等のテーマが含まれる。ただ、純文学小説を定期的に読む人やこれから読もうという人には、忘れがたい強い読書経験となることは間違いないだろう。好きな人は、大好きな、まさにいい意味での「信者」の集まりそうな作品だった。