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才能を手に入れるために弟を売った少年『夜市』【小説感想】

 

妖怪たちが古今東西のありとあらゆる不思議な品物を売る市場「夜市」。

「自由」「知識」「才能」「首」「何でも切れる刀」「人間」と扱う商品に制限など存在しない。

ここでは望むものが何でも手に入る。

女子大学生のいずみは高校時代の同級生、裕司に連れられこの「夜市」に迷い込んだ。

裕司はかつてここで取引をしたことがあった。この買い物を裕司は今の今まで後悔し続けている。

失ったものを取り戻すために裕司はまた「夜市」に帰ってきた。

表題作「夜市」と「風の古道」の二作で構成される小説。

日本ホラー小説大賞受賞作。

 

「夜市」の見どころ

不思議な市場・夜市

首を売っている店もあった。台の上に、ライオンや象、ムースやバッファロー、そして明らかに人間と思われる男と女の首が並んでいた。

その店の主人は葉巻カウボーイで、ライフルを分解して暇をつぶしていた。

(出典:『夜市』)

「夜市」はなんの前触れもなく突然と現れる。

そして、一度迷い込んでしまった者はなんらかの取引をするまで帰ることができない。

そこでは妖怪たちがありとあらゆるものの売買をしていた。

料金さえ払えば人間も”客”として商品を買うことができる。

人間の世界では決して手に入れることさえできないものも”対価”しだいで誰でも入手できるのだ。

 

いずみと裕司

いずみや裕司に連れられて夜市に迷い込んでしまった。

裕司は小学生のときに一度、夜市に来たことがあった。

そのときは人攫いに弟を売って「野球の才能」を手に入れた。その才能を使って甲子園に出場するなど活躍をしたがこの取引がずっと胸につっかえていた。

ときが立ち、裕司は再度「夜市」が開かれることを知ってしまった。

裕司は全財産の七十二万円と友人のいずみを引き連れ「夜市」を再び訪れる。

裕司は何を考えているのか?まさか私を売る気なのか?

最後に彼の想定外の選択が示される。

 

風の古道

「風の古道」も「夜市」同様にひょんなことから不思議な世界に迷い込んでしまう物語だ。

七歳の春に小金井公園の中で不思議な古道の存在を知ってしまった。

夜になるとお化けがでるなんて言われている道だった。

そして、十二歳の夏に秘密の道の存在を友人に打ち明けた。

二人は探検気分でその古道に入ってみた。

だがそれが人生を変える「別れ」を経験する”冒険”となってしまった。

 

終わりに

というわけで『夜市』を紹介した。

異世界に迷い込んでしまった人々の話。

全二編から構成される小説で、物語はどちらも読み終わった後の余韻がなんとも言えない味を出している。

摩訶不思議な世界観を体験したい人にはおすすめの小説である。