小説家、劇作家、放送作家として長く第一線で活躍をしてきた井上ひさしさん。
職業柄、もちろん本を読むことは多いがその蔵書の数は凄まじく、生涯集めた本の数は十三万冊にも及んだ。
これらの本を全て寄贈し、図書館まで作ってしまったほどだった。
そんじょそこらの”読書家”とはレベルが違う。
では、どのようにしてここまで本を集めるにいたったのか、そもそもの本との出会いはと井上ひさしの半生と本について書かれているのだ本書の『本の運命』である。
生涯を”本”と共に生きた壮大な物語が書かれている。
「本の運命」の見どころ
本との出会い
著者の実家はよろず屋のようなことをやっていた店だった。
店の半分は薬局だが、文房具も置いてある。
レコードも少しあって、本も雑誌も扱っていた。
父親は小説家志望で賞を受賞したこともあった。
母親も文学好きでベストセラーや必読書と言われた本はだいたい集めていた。
幼少期にはいつでも隣に本がある環境で育ったのだ。
そんな中でいつの間にか、
「本は楽しい」
「本は大事にしなければいけない」
「本を読む人は偉い」
「本を持っている人はなお偉い」
と体に染み付いていった。
これが、長きにわたって本を収集し続けるきっかけとなった。
井上流本の読み方
本書には十三万冊を集めた著者流の本の読み方が書いてある。
一部を抜粋すると、
- オッと思ったら赤鉛筆
とにかく面白いを思った部分に線を引く。
すると次読むときに要点を絞った部分のみを読むことができる。
- 本はゆっくり読むと、早く読める
どんな本も最初は丁寧に読んでいく。
登場人物の名前、関係などをしっかりと抑えて読んでいくと頭の中で状況が整理されていく。
すると、自然に読む速度が早くなるとか。
これが、井上流の速読法とのこと。
- 目次を睨むべし
目次を読むことでその構造を見破り、論旨の進め方の検討をつける。
- ツンドクにも効用がある
本との出会いは一期一会。
一度出会いを逃したらもう二度と出会えないかもしれない。
ツンドクをして数日机の横に置いておくと、自然と「これ読まなくてもいいや」「急いで読まなきゃ」とわかってくるとか。
いい本を読むためにツンドクにも効果があるとのこと。
このように本を読んでいき、十三万冊までに達した。
図書館を作るまで
こうしてコツコツと本を集めていき膨大な数の本が集まった。
この頃に故郷の山形県川西町の若い人たちとの付き合いが始まって、ふと「本は全部、故郷の若い人たちにそっくりさし上げたらいいんじゃないか」と思い立つ。
これが図書館の始まりだったとか。
当時の町長もこの話にのって、スペースの空いていた町の施設を使い蔵書を全て移動させてしまった。
この引越し作業も大変でトラック4台を使って何度も何度も往復し、なんとか運ぶことができたとか。
このときに、本が十三万冊あったことが発覚した。
井上さんもこんなにあるとは思っていなかったためひどく驚いたとか。
この施設が流行って本を貸すようになり、ついには図書館まで作られてしまった。
この本が全て一人の人間によって集められたのだから個人の蔵書もここまでいくと凄まじい。
井上さんが集めた「本の運命」は多くの人たちに読まれる形にたどり着いた。
終わりに
というわけで『本の運命』を紹介した。
個人で十三万冊の本を集めた井上ひさしさんの半生と本との関係性について書いたノンフィクションである。
「本」への愛がひしひしと伝わって来る「本」となっている。